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静岡地方裁判所 平成6年(ワ)132号 判決 1999年12月24日

原告

株式会社オリエントコーポレーション

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

新里秀範

内河惠一

雑賀正浩

村田茂

矢吹誠

中根茂夫

被告

別紙被告目録≪省略≫記載のとおり

右被告ら訴訟代理人弁護士

藤森克美

主文

一  被告らは、原告に対し、別紙請求金額目録≪省略≫各「請求金額」欄記載の金員及びこれらに対する同目録各「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、個品割賦購入あっせん等を業とする原告が、布団等の訪問販売を業とする株式会社a(静岡市<以下省略>、破産者(平成六年二月破産宣告)。以下「a社」という。)の顧客である被告らに対し、原告と被告らとの間の立替払契約(以下「本件各立替払契約」という。)に基づき、被告らがa社との売買契約(以下「本件各売買契約」という。)により購入した商品の代金を立替払いしたとして、被告らに対し、右立替金及び手数料(以下「本件立替金」という。)を請求した事案である。

一  争点

1  本件各立替払契約は成立したか

2  本件各売買契約は、通謀虚偽表示により無効であるか。また、被告らは、右無効を原告に主張できるか

3  被告らは、同時履行の抗弁を主張できるか

4  被告らは、割賦販売法三〇条の六、四条の三による契約の解除(以下「クーリングオフ」という。)を主張できるか

5  相殺の可否(被告らは、原告に対し、次の損害賠償請求権を有しているか)

(一) 原告の通産省通達違反に基づく損害賠償請求権

(二) 原告のa社に対する使用者責任に基づく損害賠償請求権

6  過失相殺法理の準用の可否(原告に過失相殺法理を準用すべき事情があるか)

二  争点についての当事者の主張

1  争点1(本件各立替払契約は成立したか)について

(原告)

(一) 別表≪省略≫第1契約一覧表(以下、別表については、別表第1、あるいは同第2、同第3と表示する。)「被告名」欄記載の各被告(同表契約番号≪省略≫については、被告Y1及び同Y2、同Y3の被相続人。なお、以下、各立替払契約については、別表第1記載の契約番号で特定する。)は、同表「契約締結日」欄記載の日に、a社から同表「購入商品」欄記載の商品(以下「本件各商品」という。)を購入するに際し、その代金について、原告との間で、それぞれ次の約定で立替払契約を締結し、原告は、これに基づき同表「立替払日」欄記載の日にそれぞれ右代金を各被告のために立替払いした。

(1) 立替金元金 同表「商品代金」欄記載のとおり

(2) 割賦手数料 同表「手数料」欄記載のとおり

(3) 分割払金合計 同表「合計金額」欄記載のとおり

(4) 支払方法

(毎月払分)

同表「毎月払の支払期間」欄記載の期間中、毎月二七日限り同表「2回目以降」欄記載の金員(但し、初回は、同表「初回支払額」欄記載の金員)を支払う。

(半年払分)

同表「半年払の支払期間」欄記載の期間中、「半年払の支払額」欄かっこ内記載の各月二七日限り、「半年払の支払額」欄記載の金員を支払う。

(5) 期限の利益喪失約款

被告らが、前記(4)記載の割賦金の支払を遅滞し、原告から二〇日以上の期間を定めた書面でその支払を催告されたにも拘わらず、右期間内にその履行をしなかったときは、期限の利益を失う。

(二) 被告らは、前記分割払金合計のうち、同表「既払額」欄記載の金額の支払いをするのみで、その余の割賦金を支払わない。

(三) 原告は、被告らに対し、同表「催告書到達日」欄記載の日に支払を催告し、被告らは、同表「期限の利益喪失日」欄記載の日にそれぞれ期限の利益を失った。

2  争点2(本件各売買契約は、通謀虚偽表示により無効であるか、また、被告らは、右無効を原告に主張できるか)について

(被告ら)

(一) 被告らは、a社の営業担当の従業員(以下「a社の担当者あるいは従業員」という。)から「自分の業績を上げたいので、a社から商品を購入したことにして、クレジット契約の名義を借りたい、月々の分割金は、自分の責任において返済する。」等と頼まれ、寝具等の売買契約について名義を貸すことを承諾し、真実は寝具等の商品を購入する意思がないのに、これがあるかの如く装い、右商品を購入する旨の売買契約を成立させた(契約番号≪省略≫の契約の被告を除く。)。

したがって、被告らとa社との各売買契約は、通謀虚偽表示により無効である。そして、被告らは、割賦販売法三〇条の四により、右無効を原告に対して主張しうる。

(二) 後記のとおり、原告は、信義則に反し右無効の主張は許されないと述べるが、右各売買契約は、いずれもa社従業員の積極的な詐欺的行為により仮装されたもので、被告らは、従業員から、原告から電話があったら何をいわれても「了解している」旨答えておくよう指示されていたため、その指示に従ったのであり(契約番号≪省略≫の契約の被告を除く)、なんら信義則違反はない。

(原告)

被告らは、それぞれ、任意の意思で本件立替払契約について名義を貸すことを承諾し、各立替払契約書に署名等をし、さらに、原告静岡支店の従業員(以下「原告従業員」という。)から立替払契約の申込意思の電話確認を受けた際にも、契約内容を了解している旨回答した。

したがって、被告らにおいて、売買契約についての無効を主張することは、信義則上許されない。

3  争点3(被告らは、同時履行の抗弁を主張できるか)について

(被告ら)

被告らは、本件各商品の引渡を受けていないから、その引渡があるまで本件各立替金を支払わない。

(原告)

前記二2の本件各立替払契約に至る被告らの事情に照らすと、被告らにおいて、本件各商品が引き渡されないことを理由として同時履行の抗弁を主張することは、信義則上許されない。

4  争点4(クーリングオフによる解除の主張の可否)について

(被告ら)

(一) 被告らは、原告に対し、別表第2「クーリングオフの主張」欄記載の準備書面(いずれも、本件口頭弁論期日において陳述済み。)により、本件各立替払契約(契約番号≪省略≫を除く。)を解除する旨の意思表示をした。

(二) 原告は、後記のとおり、いわゆるクーリングオフの期間の徒過を主張するが、被告らは、契約番号≪省略≫にかかる契約の契約の契約書の写しを受け取っていない。また、契約番号≪省略≫の契約の各立替払契約書には、絶対的記載事項である商品の引渡時期の記載がないから、右期間は進行しない。

(原告)

(一) 被告らの本件各立替払契約解除の意思表示は、被告らが原告から立替払契約書を受領した日から八日(初日算入)を経過してなされたものであるから、無効である。

(二) また、被告らのクーリングオフによる解除は、右制度が本来保護の範囲としているところから逸脱しており、権利の濫用である。すなわち、被告らは、商品を受領していないことを原告に連絡して、いつでも名義貸しを中止して本件各立替払契約を解除できたにも拘わらず、右契約後、二年以上の長期にわたり右解除権を行使することがなかった。また、原告は、平成五年三月中旬ころ、a社を通じて申込がなされた立替払契約数件について、顧客から名義貸しであるとか、商品が未納であるなどの苦情が寄せられたため、当時未払い分のあった顧客全員に対し、債権内容の確認を求める債権問い合わせ書兼回答書(以下「確認葉書」という。)を郵送した。ところが、被告らのうち八四名は、「割賦債権残高に間違いがない」、「商品も受け取っている」旨の回答をした。

5  争点5(相殺の可否)について

(一) 原告の通産省通達違反に基づく損害賠償請求権の有無

(被告ら)

(1) 通産省通達に基づく信販会社の従業員の注意義務

通産省昭和五八年三月一一日「個品購入あっせん契約に関する消費者トラブルの防止について」と題する通達(以下「通産省通達」という。)は、「信販会社は、加盟店がいわゆる名義貸しによる架空の売買契約を締結しないよう徹底させなければならない」旨定めるとともに、以下のことを定めている。

ア 加盟店契約締結後も、加盟店が取り扱う商品及び役務の内容並びに販売方法等を十分把握するとともに、加盟店に対しては、商品の供給を適正かつ円滑に行うため、販売予測及び在庫管理等を強化するよう、また、役務については、契約に基づく内容を提供できる体制を常に保つよう指導する。

加盟店契約締結後も加盟店の債権内容等を審査、管理し、加盟店の信用状態を継続的に把握する。

イ 加盟店が消費者に対して詐欺的行為を行って消費者に個品割賦購入あっせん契約を締結させ、あるいは消費者が加盟店からの依頼に応じて自己の名義を貸すために虚偽の意思表示を行って個品割賦購入あっせん契約を締結することを防止するため、消費者の契約締結意思の確認を厳格に行うこと。具体的には、電話等による申込意思の確認の際に、購入者自身でなければ答えられないような項目を照会する等により、その徹底を図ること。

したがって、信販会社の従業員は、右通達に基づき、右各項に定められた義務を履行し、加盟店が顧客等から購入者名義を借用する等の不正な取引をして顧客等に損害を発生させるのを未然に防止する義務があり、右従業員が業務を執行するにあたり、右義務に違反して相当な注意を怠り、顧客に損害を与えた場合には、民法七一五条一項により、信販会社は、顧客の損害を賠償しなければならない。

(2) 原告従業員の注意義務違反

ア 本件において原告の従業員は、加盟店の販売方法、債権内容等を十分把握する義務があるのにこれを怠り、後記6の原告の主張のとおり、契約書の内容等を確認しなかったため、被告らの名義貸しを発見しなかった。

また、原告には、a社の信用状態を継続的に把握する義務があり、しかも、同社との加盟店契約には、同社の財産及び経営状況等について報告及び調査を求めることができる旨の定め(同契約二〇条)があったから、定期的にa社所有の不動産の登記簿謄本の提出、帳簿等の調査、報告を求めた上、同社の信用状態や経営状況等を把握すべきであったが、これらをしなかった。そのため、原告は、a社の売上が、平成三年度は半減し、平成四年三月には、同社の手形がいわゆる闇金融にわたっていたこと、また、同社は、同年八月ころには、貸金業法違反等の容疑で逮捕されたB(金融業者)から多額の借金をしていたこと等、その信用状態及び経営状況が相当悪化し、顧客等から購入者名義を借用する等不正な取引を行いかねない状況にあったことを見逃し、他方で、平成五年三月期には、右借金の金利負担や不景気のため本来ならば資金繰りに苦慮するはずであるのに経常利益が赤字から黒字に転化し、同期の売上が前年より一億円近く伸びているという不自然な経理の状況も見逃し、結局は、被告らの名義貸しを発見できなかった。

イ さらに、原告は、顧客に対する電話による申込意思の確認の際、購入者自身でなければ答えられないような項目を照会し、名義貸しを発見すべきであったにもかかわらず、後記6の被告らの主張のとおりの電話照会をしたため、本件の名義貸しを発見できなかった。

このため、被告らは、a社に購入者名義を貸し、原告が被告らに請求している額と同額の損害を被った。

被告らは、本訴において、原告に対し、右損害賠償請求権と本件立替金請求権とを対等額で相殺する旨の意思表示をした。

(原告)

(1) 被告らは、通産省の通達に基づく加盟店に対する指導監督義務を主張するが、右通達の定めは、信販会社が自ら経済的損失を避けるために努力すべき内部的な基準を定めたに過ぎず、法的な義務といえるものではない。

(2) 仮に、被告ら主張の義務があるとしても、次のとおり、原告はその義務を尽くしており、原告に過失はない。

ア 被告らは、a社が平成四年三月から同八月にかけて、不明朗な手形行為や多額の借金等をしていた事実を指摘するが、右事実は、いずれもa社が倒産した後である平成五年一〇月以降の新聞記事により明らかになったものであり、それ以前に知ることは、一般に、原告の調査能力を超えるものであった。また、同年八月にa社がBに対して設定した根抵当権の極度額は五〇〇万円であり、原告の抵当権に順位も債権額も及ばないものであったから、右根抵当権の設定登記がなされた事実のみをもって、a社の名義貸しに直ちに結びつく徴憑ということはできない。

イ また、原告は、後記6の原告主張のとおりの方式により、被告らに対し、電話による意思確認をしており、被告らが、いずれも契約書の記載どおり間違いない旨の回答をしたため、本件各立替払契約の締結の申込に応じたもので、原告に過失はない。

(二) 原告のa社に対する使用者責任に基づく損害賠償請求権の有無

(被告ら)

(1) a社は、前記二2のとおり、その従業員をして、被告らを誤信させ、原告のクレジット申込用紙に署名押印させ、被告らに原告の請求額と同額の債務を負担させ、右同額の損害を与えた。

(2) 原告は、a社と加盟店契約を締結し、営業上の利益を得ていたから、両者の関係は、使用者とその被用者に準ずる関係にあると考えられ、前記a社の行為ないしはその従業員の行為は、原告の業務の執行についてなされたというべきである。したがって、原告は、被告らに対し、民法七一五条一項により、被告らの前記損害を賠償すべきである。

被告らは、本訴において、原告に対し、右損害賠償請求権と本件立替金請求権を対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(原告)

原告とa社とは、信販会社と加盟店との関係に過ぎず、使用者、被用者に準ずる関係にはない。

6  争点6(過失相殺法理の準用の可否)について

(被告ら)

原告は、個品割賦購入あっせん契約により多大な利益を上げながら、前記二5(一)に掲げる通産省通達違反の行為をし、さらに、本件各立替払契約書(被告ら全員で一二五件)には、a社の従業員による虚偽事実が多数記載されており、そもそも被告ら自身が契約書に署名押印していない場合が多い上、契約書上も、年収の記載(一二五件)や、訪問販売法上の絶対的記載事項である商品の引渡時期の記載(一二一件)等が欠けていること、支払方法に郵便振込が多用され(五二件)、銀行口座の記載のない被告らもいること(三三件)、初回の支払日が契約日から四か月(二三件)ないし五か月(九七件)先であること、印鑑が銀行印でないことといった不自然な態様や記載があり、契約書自体からはもちろん、従前、原告と被告ら間で締結された契約書等と見較べれば、右虚偽記載や署名ないし印影の齟齬等を発見できたにもかかわらず、これらを看過した。また、原告は、電話による意思確認の際も、被告らに商品名や金額を告知しておらず、告知しても、単に契約内容を読み上げて回答を誘導する形式をとり、契約書上の電話番号や住所等が誤っている被告らが多数あることも看過し、a社の不正な行為を発見しなかった。なお、原告の決裁書類の中に商品限度額オーバーとしてチェックの入っていたのは六八件という高率であった。

一方、被告らのうち五七名は、クレジット契約の仕組みを正確に認識しておらず、被告らの多数は、契約書に署名や捺印をしていないこと、多くの契約(六九件)において契約書の授受がなされていないこと、被告らのうち、三一名にa社の担当者から念書が差し入れられていること等に照らせば、当事者間の公平の見地から民法四一八条の過失相殺の法理を準用し、原告の請求は大幅に減額されるべきである。

(原告)

(一) 被告らは、原告が本件各立替払契約締結の際に不自然な態様や契約書の記載を看過したと主張するが、その主張する事実は名義貸しを推認させるような事実とはいえない。

まず、契約書上の記載の誤謬は、勤務先の記載がない、ないしは、勤続年数が誤っているといった些細なことが大半であり、被告らの同一性を識別する上での重大な齟齬(例えば、被告らの氏名、生年月日、住所等)はない。また、本件各立替払契約のうち、一一八件については被告ら自身が署名押印しているところ、大量の契約締結を処理する原告において、個々の契約申込につき、その都度、当該申込人の従前の契約書を抽出して、その記載を見較べることは事実上困難である。

次に、本件各立替払契約書には、商品の引渡時期の記載が欠けているが、通常、商品未納があれば、当該顧客から直ちに原告に苦情が出されるのが一般的であるところ、本件においては、a社が倒産するまで被告らから商品未納の苦情はなかった。また、支払方法に郵便振替が多用されているが、地域によっては銀行の支店等が存在するとは限らないため、利便性の点から郵便局を利用することも通常あり得るし、特定の郵便局のみから割賦金が支払われたなどの事情も存在しない。同様に、初回の支払日が四か月ないし五か月先であるのも、被告らの割賦金返済の利便性を考慮したものであり、通常あり得ることである。

さらに、原告は、電話による申込意思の確認の際、商品名や金額を被告らに確認し、プライバシーを侵害しない限度で、購入者自身でなければ答えられない質問もしている。なお、原告は、購入者から立替払契約の内容についての間違いや疑問点の指摘、いわゆる「名義貸し」をしたなどの返事があれば、一旦電話を切り、申込意思の確認作業を保留することにしている。

(二) 被告らは、原告が個品割賦あっせん契約により多大な利益を上げているというが、原告は、営利法人であるところ、本件立替払契約の割賦手数料は、二四回払いで約一六パーセント、三六回払いで約二四パーセントであり、また、原告が取得する本件加盟店手数料は、一契約あたり約五パーセントに過ぎない。しかも、原告が利益を得るのは、立替払契約により顧客が立替金債務を完済したときであり、本件では立替金債務が完済されていない。

また、被告らは、その大半がクレジットの仕組みを正確に認識していなかったと主張するが、被告らのうち、過去にクレジットの利用経験がないものは被告らの陳述書によっても一四件(実際には二件)であり、被告らは、クレジット契約の仕組みや契約上の責任等についての知識を十分に有していた。仮に、被告らが、クレジットの仕組みを正確に認識しないまま契約したとしても、それは被告らの重過失に基づく錯誤によるものである。

さらに、被告らは、多くの契約において契約書が授受されていないと主張するが、そもそも被告らは、a社の担当者に契約書の交付を要求していないと推測されるし、被告らの中には、a社の従業員に念書の差入れを強要した者もおり、かえって被告らは、「名義貸し」の違法性を熟知していたものである。

(三) 被告らは、原告からの電話確認の際、自ら契約者である旨述べ、原告から送付された郵便振込伝票(支払用の専用用紙)をa社の担当者の指示に従って同社に交付し、また、原告から債権内容の確認を求めた回答書について、本件の「名義貸し」の分は意識的にa社の担当者に交付し、他方、自己の正常な立替払契約の分は、自ら署名押印したうえ、原告に返送している。

右で述べた各時点のいずれかの時、被告らが、本件各売買契約が架空である旨を原告に知らせていれば、a社による名義貸しの勧誘行為がより早く露見し、架空売買に基づく立替払契約の申込の増加を防ぐことができたはずである。被告らは、自己の不法な行為を棚に上げて原告の過失を論難するものである。

以上のとおり、本件において、過失相殺の法理を準用するのを相当とする事情は存在しない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(立替払契約の成否)について

証拠(別表第3の証拠の標目「陳述書」、「契約書」、「確認指示票」、「催告書」各欄記載の各証拠、証人C、同D、同E、同F、同G、被告Y4、同Y5、同Y6、同Y7、同Y8、同Y9、同Y10各本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、別表第2の「契約申込年月日」欄記載の日に、同表「担当者」欄記載のa社の従業員から概略、同表「説明・動機」、「説明・契約後」の各欄記載のとおり、「自分の業績を上げたいので、クレジット契約の名義を借りたい、月々の分割金は、自分の責任を以て返済する。」等と懇請され、本件各立替払契約について名義を貸して、それぞれ契約当事者になることを承諾し、自ら本件各立替払契約書に署名又は捺印し、ないしは、右各契約書の作成に承諾を与えたこと(その区別については、別表第2の「契約書への署名」欄記載のとおり。)、なお、被告らの中には、右の承諾をしただけで、契約書の写しを交付されない者(契約書写しの受領の有無は、同表「契約書写しの受領」欄記載のとおり。)もおり、契約内容について、右当時は知らなかった者もいたが、被告らは、いずれも、同表「電話確認の日」欄記載の日(契約番号≪省略≫の契約については、前記契約申込年月日のころ)に、原告従業員から立替払契約の申込みについて電話での確認を受け、その際、購入した商品名、代金の支払回数、月々の支払額等の契約内容を告げられ、これに対し、事前にa社の営業担当者から原告から申し込み確認の電話が来たら、「ハイ」と答えておくよう依頼ないし指示されていたため、いずれも了解している旨回答したことがそれぞれ認められる。そうすると被告らは、右契約に名義を貸すことを承諾し、少なくとも右電話確認の際には契約の内容を認識し、その上で、原告従業員に対し、電話で契約締結について承諾した旨回答したのであるから、被告らは、原告との間で、遅くとも同表「契約締結の日」欄記載の日(原告主張の日。但し、契約番号≪省略≫を除く。)に、それぞれ本件各立替払契約を締結したということができる(なお、契約番号≪省略≫についての契約書(≪証拠省略≫)の契約年月日の記載は誤記と思われる。)。そして、被告らは、別表第1「催告書到達日」欄記載の日にそれぞれ催告書を受領しており、同表「期限の利益喪失日」欄記載の日にそれぞれ期限の利益を喪失したことが認められる。

なお、契約番号≪省略≫につき、≪証拠省略≫(被告Y11の陳述書)には、被告Y11は、a社の従業員であるH(以下「H」という。)に「ちょっと判を貸してくれない。」といわれ、印鑑を渡しただけであり、本件の立替払契約の存在を認識していなかった、原告から申込意思確認の電話は受けた覚えがないとの記載がある。しかし、証拠(≪証拠省略≫、証人D)及び弁論の全趣旨によれば、原告従業員が同表「電話確認の日」欄記載の日に、右被告の自宅に電話をし、契約内容を告げて契約意思を確認したこと、右被告は、既にa社から絨毯をクレジットで購入するなどしてa社との取引が数度あり、Hが二か月おきに家に訪ねて来る度に家にあげるなどして世間話をし、同人が好感の持てるセールスマンであると思っていたことがそれぞれ認められ、これらの事実に照らせば、右陳述書のうち、前認定に反する部分はにわかに措信できず、前認定を左右しない。

二  争点2(通謀虚偽表示)及び争点3(同時履行の抗弁)について

弁論の全趣旨によれば、本件各売買契約がいずれも架空の売買契約であること及び被告らがいずれも商品を受け取っていないことがそれぞれ認められる。

ところで、前記第三、一のとおり、被告らは、a社の従業員に懇請され、本件各立替払契約が架空の売買契約によるものであることを承知しながら(したがって、被告らは、そもそも商品の引渡しを受けること自体考えていなかった。)、自己名義の立替払契約書が作成されることに承諾を与え、その後、電話確認をしてきた原告従業員に対し、真実商品を購入したかの如く回答し、a社とともに売買契約に仮装して、原告を欺罔し、本件各立替払契約の申込をしたものである。そして、原告は、このような事実を知っていれば、右契約の申込を承諾するはずがなかったことは明らかである。以上の事実に鑑みれば、被告らが、本件各売買契約は、通謀虚偽表示により無効であることや商品引渡がないことを抗弁として原告に対し主張することは、信義則上許されないというべきである。

三  争点4(クーリングオフによる解除の主張の可否)について

被告らが本件各立替払契約を締結した経緯は前記第三、一記載のとおりであり、被告らが、原告に対し、別表第2「クーリングオフの主張」欄記載の各準備書面により、本件各立替払契約(契約番号≪省略≫を除く。)を解除する旨の意思表示をしたことは、当裁判所に顕著である。

ところで、クーリングオフの制度は、消費者に、購入を約した商品等の要否について今一度熟慮する機会を与え(購入申込の日から数えて八日間)、その結果不要と判断した商品等の購入契約につき、当該契約の申込の撤回又は解除を認めて、消費者の保護を図ったものである。しかしながら、本件は、いずれも前記のとおり名義貸しの事案であって、被告らには、もともと商品購入の意思はなく、実体のない契約であることを承知の上で本件各売買契約を締結したのであり、右の制度が本来保護の範囲ないし対象として予定しているものから逸脱しているというべきである。その上、被告らは、本件各売買契約締結後、二年以上の長期にわたって右権利を行使せず、原告から訴訟により立替金の支払いを請求されて漸くクーリングオフによる解除の主張をした(弁論の全趣旨)ことからすれば、被告らの右主張は権利の濫用にあたり、許されないというべきである。

四  争点5(一)(通産省通達違反による不法行為責任の成否)について

被告らの主張する通産省通達は、通産省が個別割賦購入あっせん契約に関する消費者トラブルを防止するための対策を定めて、通産省産業政策局消費経済課長名で社団法人全国信販協会等に通知したもので、被告らの主張する定め等を内容としている(≪証拠省略≫)。しかしながら、右通達は、右社団法人とその会員に対して、消費者とのトラブルを防止するための指針を示して指導を徹底させたものと認められ、仮に、これに反するような行為があったとしても、そのことのみで、原告の被告らに対する不法行為による損害賠償責任を根拠づけるものということはできない。したがって、被告らのこの点についての主張は理由がない。

五  争点5(二)(a社に対する使用者責任の成否)について

原告が、昭和六三年一一月、a社との間で、加盟店契約を締結したことは、当事者間に争いがない。しかし、右両者の関係について、使用者と被用者ないしはこれに準ずる関係にあり、a社が原告の指揮監督に服していたとの事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

六  争点6(過失相殺法理の準用の可否)

1  証拠(各項の標題の下に掲記)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおりの事実が認められる。

(一) a社が名義貸しを勧誘した経緯等(別表第3の証拠の標目「立替明細表」欄記載の各証拠、≪証拠省略≫、証人C、同D、同I、同E、同F)

(1) a社は、昭和六二年一二月に設立された寝具等の訪問販売を業とする株式会社(代表取締役、I(以下「I」という。))であり、翌六三年一一月に、原告との間で加盟店契約を締結し、その販売する寝具等の約九五パーセントについて原告と立替払契約を締結していた(なお、原告は、平成二年にIに対し、a社の本社ビル建設資金合計一億五〇〇〇万円を融資した。)。そして、平成四年当時の従業員は一四名で、そのうち、営業部長F(以下「F」という。)、営業課長H及びJ(以下「J」という。)、経理課長E(以下「E」という。)、Fの部下のG(以下「G」という。)ら五名(以下これらの者を「営業担当者」という。)が、被告らに対し、本件各立替払契約について名義を貸すよう勧誘した。

また、a社は、平成二年ころから同三年ころにかけて訪問販売の売り上げが下がり、平成二年に三億六〇〇〇万円あった売り上げが平成三年度には一億九〇〇〇万円まで減少し、同年三月、手形割引にからむトラブルからその支払資金に窮し、平成四年四月ころには、そのままでは従業員に対する給料の支払いもままならない状態になった。このため、a社は、同月ころから顧客との間で架空の売買契約を締結した上、顧客に名義を借りて原告と立替払契約を締結し、原告から支払われる立替金を資金繰りに充て、月々の割賦金をa社が顧客に代わって支払うことにして、実質的に原告から金融を得るようになった。具体的には、Iが、Fに対し、顧客に依頼して、架空の売買契約を締結したことにし、顧客名義で原告との間に立替払契約を締結すること及びその際には、正常の契約に比べ契約一件ごとの単価を倍増させることなどを指示した。そして、同年八月ころになると、Iは、F以外の営業担当者らに対しても、直接金額等を提示した上、顧客から名義貸しによる立替払契約を締結するよう指示した。また、Iは、営業担当者に対し、右の方法による立替払契約の割賦金の支払方法につき、郵便振込みを選択(他に口座振替えもある。)するよう指示し、原告から顧客に対し振込用紙が送付されたらa社に連絡するよう伝えさせ、顧客からの連絡後、直ちに、振込用紙を回収して支払期日に割賦金を振り込むよう指示していた。

平成四年四月から平成五年四月までの右の指示による立替払契約における郵便振込みの利用状況は、次の表≪省略≫のとおりである。

(なお、本件各立替払契約以前に、a社との取引で原告との立替払契約を利用したことのある被告らについては、支払方法につき口座振替を選択し、営業担当者において立替払契約書の「お支払口座」欄に、被告らが従前利用していた支払口座を記入して、引き落とし日(毎月二七日)の前日又は当時に、a社から営業担当者名義で右口座へ割賦金相当額を入金する扱いとした。)

(2) 本件各立替払契約は、そのほとんどが支払開始を三ないし四か月繰り延べされていた(スキップ契約)が、原告からa社へ送付される立替金の明細書には、何ヶ月支払開始が繰り延べされたか(スキップしたか)印字されていたので、原告において立替金の明細書を一覧すればスキップ契約の存在は明らかであった。

(3) a社は、売り上げをコンピューターで管理していたが、架空契約についてはコンピューターに入力せず、手書きの表を作成しており、同社の仕入れ帳を見れば架空契約の存在を知ることができた。しかし、当時、一般に加盟店は信販会社に仕入れ帳等を見せることはなかった。

(二) 名義貸し勧誘の方法等(別表第3の証拠の標目「陳述書」、「契約書」、「念書」各欄記載の各証拠、証人I、同E、同F、同G、前掲被告ら各本人)

別表第2「担当者」欄記載の営業担当者は、各被告らに対し、自己の成績ないしは会社の売り上げを上げるため必要がある等といって架空契約を持ちかけ、すぐに解約するし、万一の場合には自分が支払う、又は、二、三回支払ったら一括で支払うなどと、同表「説明・動機」欄及び同「説明・契約後」欄記載のとおり、各被告らに説明して懇請し、被告らに立替払契約書への署名又は捺印をさせ、又は、被告ら名義の立替払契約書の作成について承諾を得て、本件各立替払契約書を作成した。右契約書の被告らの署名部分以外は、全て営業担当者が記入したため、勤続年数や勤務先の所在地が不正確なもの並びに年収及び商品の引渡時期の記載のないものなどがあった。被告らの中には、立替払契約書作成時に営業担当者から架空契約であることの念書を受取ったものもいた(契約書作成時の念書の受領の有無は、同表「契約時の念書の受領」欄記載のとおり。)。

なお、契約時における被告らの性別、年齢、職業は同表「性別」、「契約時年齢」、「契約時職業」の各欄記載のとおりであり、性別、年齢別のそれぞれの人数(但し延べ人数)は次の表≪省略≫のとおりである。

また、被告らが本件各立替払契約以前にa社から購入した商品の有無等は、同表「従前a社で購入した商品」欄記載のとおりであり、その支払方法は、同表「そのときの支払方法」欄記載のとおりである。

(三) 原告従業員による与信調査及び申込みの確認等(別表第3証拠の標目「陳述書」、「確認指示票」各欄記載の各証拠、証人C、同D、同I、同E、同F)

(1) a社の営業担当者は、名義貸しについて被告らの承諾を得ると直ちに、前認定の日に原告に対し、電話で、契約者の住所、年齢、職業等及び購入する商品名、代金額、クレジットにする金額とその支払方法等を連絡した。これに基づき原告従業員は、顧客の年収及び残債務の額等を検討して与信調査をした。顧客の年収は、もともと一般に契約書に記入されないことが多かったため、顧客と同年齢の者の平均収入と照らし合わせるなどし、与信可能かを判断し、問題がないと判断した場合には、顧客である被告らに対し、電話で購入した商品名やクレジットの金額とその支払方法等の契約内容の確認ないしは説明をした上、契約申込についての確認を行った。

(2) 原告の内部資料である決裁書類では、立替払いをする商品の価額が原告が定めた当該商品の標準価額よりも高額な場合には「商品限度額オーバー」と印字されるような仕組みとなっており、本件各立替金契約のうち六八件の決裁書類について、右印字がなされていた。

本件各立替払契約書の中には、口座番号の記載がないものもあったが、これらの契約については、原告従業員が、電話確認の際に、従前、引き落とし口座として使ったことのある口座から引き落として良いか確認しており、被告らはこれを了承し、ないしは別口座からの引き落としを希望する旨回答した。

そして、被告らから了解した旨の回答を得ると、原告従業員は、立替払契約書をa社へ取りに行き、その契約内容と右電話での確認内容とを照合した上、約三日後にa社に立替金を送金した。なお、各立替払契約書には、商品の引渡時期の記載がないものが多く含まれていたが、右記載は、一般的に励行されてはいなかった。

(四) 名義貸し発覚後の処理(証人C、同I、同E、同F)

原告従業員が、平成五年一月ころ、割賦金の支払いを遅滞しているa社の顧客数名に対しその支払いを催告したところ、顧客に商品が届いていないことが初めて判明した。そこで、原告は、直ちにa社に問い合わせて報告を求めたところ、Iから従業員が勝手に顧客から名義を借りて、架空契約を締結した旨の報告があり、Iの指示でHが謝罪にきた。右のようなことがあったため、原告は、a社に対し、郵便振り込みによるクレジット契約の取扱いの停止を通告し、架空契約の一覧表を提出させたが、結果的にa社は、架空契約の一部しか明らかにしなかった。

(五) 確認葉書の送付等(別表第3証拠の標目「陳述書」及び「確認葉書」各欄記載の各証拠、≪証拠省略≫、証人C、同F、同G、前掲被告ら本人)

原告は、平成五年三月ころ、被告らを含め、名義貸しによるa社の架空契約が他にも数件あることを発見した。このため、原告は、a社の顧客で、右当時、債権残高がある約一二〇〇件の契約全部につき、債権確認の通知を発送し、返信用葉書(確認葉書)で、立替金の残高及び商品の受領状況について記入して、原告に返送するよう依頼した。

そして、確認葉書の送付を受けた被告らは、正規の契約分については自分で記入して返送する一方で、名義貸しの契約分については、a社の営業担当者の指示により、自ら虚偽の記入をして返送したり、右葉書をそのまま(白紙)右担当者に手渡した。なお、営業担当者が回収後に廃棄したものもあったことなどから、本件に関し被告らに送付された確認葉書(一二五通)のうち、原告に返送された分は、結局八六通しかなく、そのうち架空契約であることを申し出たものは一通もなかった。

(六) a社の倒産等(≪証拠省略≫、証人I、同F)

原告は、平成五年四月ころ、a社に対し、新規の立替払契約の取扱いを停止し、同社は、同年七月ころには、資金不足で、架空契約の割賦金の支払いもできなくなり、結局、同年九月一七日、銀行取引停止となり、事実上倒産した。

2  以上の事実を前提に原告に過失があるか検討する。

前認定のとおり、本件は、売上げの減少等により資金繰りに窮したa社が、原告から立替金名目で金融を得る目的から代表者Iの指示に基づき会社ぐるみで顧客を巻き込んでした名義貸し契約の事案であり、名義を貸した被告らが購入したことにした商品は、家具や羽毛布団等高額なものに集中し、本件各立替払契約のほとんどが割賦金の支払開始月を三ないし四か月繰り延べしてあり、原告は立替金の明細書によりこれを知りうる状況にあったこと、原告が定めていた商品の基準価額を越える「商品限度額オーバー」が一二五件中六八件あり、原告の決裁書類にこれが現われていたこと、しかも、本件各立替払契約の四割近くは、郵便振込であったこと、また、原告は、a社にとって唯一の加盟店契約先であり、個人の顧客に対する売り上げのほとんどを占める立替払契約の全てを取り扱っていた上、加盟店契約に基づき、必要に応じてa社の帳簿を閲覧することが可能であり、また、同社の本社ビルの建設資金をその代表者に対し貸し付けていたことがそれぞれ認められる。

しかしながら、本件立替払契約当時、原告は、大手の総合信販会社として多数の加盟店を持ち、その契約数も膨大なものであった(弁論の全趣旨)上、前認定のとおり、a社が顧客と締結した契約の全てが架空契約ではなかったこと、a社が販売する商品は、もともと家具や羽毛布団等高額なものであったこと(したがって、「商品限度額オーバー」自体で特異な契約とは認めがたい。)、a社に限ってみても、その契約数は、膨大なものであったことなどに照らすと、一般的にみて、原告において、全加盟店の財務状況を逐次把握しつつ、随時送られてくる契約書を比較、総合検討して、加盟店の不正な契約を発見することは事実上困難であったというべきであるし、a社に関しても、被告らの指摘するところを前提にしてもなお困難であったというべきである(なお、本件各立替払契約において、割賦金の支払開始月が繰り延べされているが、これが通常の契約からみて特段に不自然であることを認めうる証拠はない。)。

また、前認定のとおり、本件各立替払契約書には、勤続年数の誤りや勤務先の所在地が不正確なもの並びに年収及び商品の引渡時期の記載のないものがあるが、年収や商品の引渡時期の記載が一般的に励行されていないことからすれば、これらをもって集団的な架空契約を疑わせるような徴憑とは認められない。そして、本件では、前認定のとおり、被告らは、a社の営業担当者から、原告従業員からの確認電話に対し「ハイ」と答えておくように指示されており、仮に、原告が、電話確認の際に、右の誤謬を被告らに確認したとしても、被告らは、その際に正確かつ真摯な対応をしたかは疑問であり(このことは、被告らがa社の営業担当者の指示に従い、後日、確認葉書の返送等をしたことからも明らかである。)、原告が、電話確認により本件の名義貸しによる契約を発見できた可能性は低いといわざるを得ない。

さらに、前認定のとおり、a社が架空契約を行ったのは、平成四年四月から約一年間であり、同年九月から翌年一月の約半年間に集中しており、郵便振込については、さらにその中の三か月間に集中しており、その間、原告は、架空契約の一部が発覚した平成五年一月の時点で、直ちに、郵便振込の使用を停止するなど、その防止対策を講じている。しかも、右発覚時には、本件各立替払契約のほとんどが締結されており、仮に、原告がこの時点から、直ちに調査を開始しても、ほとんどの架空契約の締結を防止することはできなかったというべきである。

原告らの電話確認における契約内容の問いには購入者自身でなければ答えられない内容のものはないが、原告の電話確認は、契約者と名義人との同一性を確認することを目的としているにすぎず、名義貸しといった顧客が積極的に信販会社を欺罔するような例外的な場合を想定しているものではないから、これをもって、原告の過失を問題とするのは相当ではない。

他方、前認定の被告らの職業、年齢、クレジットの利用経験、a社の営業担当者の懇請内容及び被告らの中には、a社の営業担当者から念書をとっていた者もいたこと等に照らすと、被告らは、a社の営業担当者にクレジット契約についての無理解に乗じて騙されたというよりも、従前から顔見知りであった営業担当者に同情して、名義貸しが不正であることを認識しつつ、これに同意したものと認められる。

被告らは、a社との取引だけを見ても、クレジット契約締結の経験があるものが多くを占めており、仮に、クレジット契約の法的な意味について十分に理解していない者がいたとしても、右で述べたとおり、名義貸しであることを認識していたのであるから、架空契約の名義人になり、代金の支払義務の名宛人になることは理解し得たというべきである。しかも、前認定のとおり、被告らは、a社の担当者に対して、契約書の作成に協力しただけでなく、a社の営業担当者の指示のままに、原告従業員の電話確認でも契約について肯定的な回答をし、自らの口座を引き落とし口座として利用することを許容し、ないしは、原告から送付された郵便振込用紙をa社の営業担当者に交付するなど、本件各立替払契約が名義貸しによるものであることの隠蔽に協力した。さらに、平成五年三月に原告から送付された確認葉書についても、自己の通常の取引に関するものについては、自ら記入して返送する一方で、名義貸しに係る分については、a社の従業員に交付して、事実と異なった記載をして返送することを容認するなど、原告の調査に真摯に協力しなかったことは前認定のとおりである。このような被告らの態度に照らせば、原告が、仮に、他に被告ら主張のような調査を尽くしたとしても、被告らがこれに積極的に協力したとは考えられず、架空契約の発見につながったかは疑問である。

そうすると、本件においては、原告が仮に調査を尽くしたとしても被告らの名義貸しを発見できたとは必ずしも認められず、その他、本件各立替払契約締結について原告になんらかの過失があったことを認めうる証拠もないから、被告らの右主張は理由がない。

七  結論

よって、原告の請求は理由があるので、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中由子 裁判官 今村和彦 松葉佐隆之)

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